骨は人間の体を支える最も大事な器官です。皆さんの骨は常に骨吸収(古い骨を破壊する)と骨形成(新しく骨をつくる)をくりかえしバランスよく生きています。ところがこのバランスが崩れると、骨の強さと柔軟さが失われ、骨がスカスカになる「骨粗しょう症」になってしまいます。
「骨粗しょう症」になると、どんな症状が出てくるのでしょうか?実は最初すぐには何も症状がないのです。「最近毎年、背が縮んでいるかなぁ…。」と感じているなら、すでに要注意です。家の中でつまずいて軽く尻もちを着いた程度なのに背中や腰の強い痛みが急に出た時には、背骨に圧迫骨折が起きているかもしれません。さらに屋外の階段で滑って転び、あしの付け根の骨折(大腿骨近位部骨折)になると入院手術が必要になります。
高齢化社会が進み、生活に介護が必要な方が増えています。その原因は「関節疾患」と「骨折・転倒」をまとめると21.1%となり、「脳卒中」の21.5%とほぼ同じになります。たとえば、血圧や血糖、コレステロールが高い方は症状がなくても、心臓病や脳卒中、腎臓病を予防するために内科の先生からお薬の治療を受けています。「骨粗しょう症」も症状がない時期から、早期診断をしっかり受けて治療を始めることが重要なのです。
「骨密度」は骨の強さをはかる最も簡単な検査なのですが、重要な点は「骨密度」を計測する部位(どの骨で計るのか?)とその方法です。まず将来、骨折が起こりやすい骨、その骨折によって重い障害を受ける危険性のある骨で計測するべきでしょう。すなわち背骨である「腰椎」と、あしの付け根である「大腿骨近位部」が最適です。また方法には3種類の方法がありますが、早期の診断と治療効果の判定にはDXA(デキサ)法が正確で再現性があり、現在広く推奨されています。
当院では、腰椎と大腿骨近位部をDXA(デキサ)法で計測する骨密度測定装置「GE社製 PRODIGY-Primo-C」を設置しています。検査結果は当日に15分程度で確認でき、前回までの結果を重ねてグラフで比較することができます。
下の図の検査結果は、初診時には大腿骨の骨密度が健常若年者の55%程度しかなく、骨折の危険性が非常に高かった患者様が、当院でテリパラチド(注射の治療薬)を1年6ヶ月継続し約70%まで改善した例です。下の図の右側のグラフで4回計測した腰椎と大腿骨の骨密度が、1年6ヶ月で右肩上がりに改善していることがわかります。
また痛みなどの症状はないものの骨密度が低く治療が必要と診断された患者様の場合、血圧や血糖、コレステロール値を正常に維持することと同じように、正確な骨密度検査の結果を確認しながら通院することで納得いただきながら治療を続けることができます。加えて「骨密度」が年齢に比較して低い場合には、その原因が「骨吸収」が強すぎるためなのか?「骨形成」が弱すぎるためなのか?を血液検査と尿検査で調べます。
治療をどの時期から始めるべきか、日本骨粗鬆学会が提唱する「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」に解説されています。
簡単にまとめると、以下の3項目のうち1つでも該当する場合には、お薬による治療を早く開始する必要があります。
「骨粗しょう症」の治療薬は、その作用機序(お薬の効くしくみ)から考えると下の図のように分かれます。主に当院で処方しているお薬を中心に簡単に説明します。いずれのお薬もそれぞれの患者様の病状に応じて適正が異なりますので、詳しくは受診時に私、院長にご相談ください。
内服と注射のお薬があります。
2種類ありますが、いずれも注射薬です。副甲状腺ホルモン(PTH)の作用を応用したお薬です。早急に骨密度を改善する必要のある、骨折の危険性が特に高い患者さんに効果があります。
骨吸収を抑える効果が高い注射薬です。破骨細胞の形成を制御する分子RANKLを標的とした生物学的製剤です。
2019年3月に登場した骨形成を促進しながら骨吸収は抑制する、両側面から骨粗しょう症に効果があります。すでに脊椎の骨折がある患者さんや、骨密度が著しく低下している重度の骨粗しょう症の患者さんに使用する注射薬です。
「骨粗しょう症」は早期診断と骨折の予防が重要です。私は病院での勤務医時代、「骨粗しょう症」による骨折で入院になり、手術が必要になった多くの患者様の治療を担当してきました。長期にわたる入院や手術におけるご本人やご家族の身体的、精神的、経済的負担は相当なものです。日常生活に不安のない今のうちに、将来のため、健康寿命を長く保つためにご自身が「骨粗しょう症」になっていないか確認してみましょう。
また「骨粗しょう症」を現在すでに治療中の方でも、「骨粗しょう症」に対する最近の治療方法は日々進歩しています。1年以上同じ治療を続けながらも、その効果が明らかでない場合は何か他の選択枝があるかも知れません。どうぞお気軽に私、院長にご相談ください。